レニー・エイブラハムソンの最新作。前作「フランク」が一人の圧倒的な才能のある男とそれに憧れる男の非常に厳しい結末を描く苦い青春劇だったので本作も楽しみにしていた。ネタバレあります。
誘拐されて7年間監禁されたジョイとその子供ジャックが監禁部屋から脱出し、社会に復帰していくまでを描く。ジャックは狭い監禁部屋で生まれ外の世界はすべて偽物だと教えられて育てられていた。中盤のクライマックスである脱出するシーンでトラックの荷台から初めて外の世界を見る。街路樹と空から降り注ぐ太陽の光の美しさ。閉じられた他者のいないひとつの完全な世界から不安定で驚きと発見に満ちた初めて見る世界が美しく描かれる。
親子二人のある意味完全な世界に他者が入り、その世界と折り合いをつけていく様子が苦痛と困難を伴いあまりに痛々しくジョイを追い詰めていく。そのまま監禁部屋の方が安全で幸福であったのかも知れないとさえ思ってしまう。
ラストシーンのクレーンショットは部屋を前景にこれからの二人を象徴するように世界の広がりを感じさせる希望に溢れるのが救いだった。
監禁事件という極端な題材を扱った映画ではあった。しかし観る人それぞれの違った形で新しい世界へと一歩踏み出すときに伴う苦痛と困難と、その先にきっとあるであろう希望のようなものが示されるのが多くの人の共感を呼ぶのだろうと思った。
ジャック役のジェイコブ・トレンブリーがとても素晴らしい。