犯罪心理学というと「羊達の沈黙」で描かれたようなプロファイルやフロイトの精神分析ぐらいしか思いつかないのけれども、amazonでセールをやっていたこともあり読んで見たらとてもおもしろかった。犯罪心理入門というタイトルで初心者向けの内容であったが、とても示唆に富むものだった。
「大阪教育大学附属池田小学校事件」や「秋葉原無差別殺傷事件」から始まり犯人の共通点や相違点などを科学的なデータをもとに紐解いていく。そして従来の精神分析やロールシャッハテストなどを診断する医師の主観が入り込むので正確さと根拠がないといっていばっさり切り捨て、科学的なデータや統計による犯罪心理学を解説していく。
主観的判断がいかに間違いを犯しやすいかという思考実験で
日本の全市町村で犯罪率の調査をしたところ、犯罪率が低いのは、北海道、東北、中部、四国の農村部であり、過疎化した高齢化の進んだ町村で、自民党支持者の多い地域ばかりだった。さて、これを読むとわれわれは何をどのように判断するだろうか。犯罪がこうした地域で少ないのは、自然が豊かなこと、人間関係が密接で地域の人々の温かい結び付きが生きていること、高齢者が多いこと、刺激が少ないことなどが理由であるのではないか、などと考えるだろう
とよくニュースなどで聞くようないかにもありそうなことが例示される。しかしその原因と思われることを下記にように記している。
しかし、タネを明かせば、おそらくそれらの事柄のどれ一つも犯罪率とは関連がない。実際、「農村部であること」「高齢であること」「人間関係の濃密さ」などは、いずれもこれまで説明した犯罪の危険因子でも保護因子でもない。 これらの地域で犯罪率が高く、また同時に低かったのは、「過疎」つまり人口が少なかったからである。これは、統計のサンプルが少なければ少ないほど、偏った結果が出やすいという単なる統計的現象にすぎず、農村の生活や社会的要因、あるいはそこに住む人々のパーソナリティ要因などとは何の関係もない。
よくよく考えれば母数が少ないのだから当然のことであるけども、私たちはわかりやすく目立った特徴の方を物事と関連付けてしまう。
以前読んだ下記の本もおもいだす。社会心理学者が書いた書籍で多くの実際の実験結果などとともに人間の「心」の本質を否定していく。システムとしての社会を頻度依存や相互均衡という概念とともに実例を交えてわかりやすく解説している。近頃の日本人すげーな風潮の雑な文化論などとは一線を画する良著。いじめのメカニズムなども考察されていて学校の先生には是非読んでもらいたい。